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そばにいたい人 スキが溢れる人 いつもぬくもりをくれる人 そんな人世界にたった1人しかいない。 その1人しかいらないなんて、 そんなの初めから知ってたよ。 19.わかっていたこと 前 休む時間が必要なのもわかる。 自分が焦りすぎているのも、冷静にならなければいけないのもわかっている。 普段なら何にも無頓着でいられる自分が、がからむだけでこんなにも感情が乱れる。 出逢ったあの日から、ずっと。自分の感情に理性が追い付かない。 苛立つまま家に帰ってもそのまま朝をむかえるだけだと思ったカカシは、酒の力を借りることにした。 ムサシには先に部屋に戻るように言ってある。 最初から次から次へと、ペースも考えずに酒を煽っていた。 「お前がそんなになんのは珍しいじゃねーか。」 声の方をチラリと見ただけで、すぐにまた視線を前に戻したカカシにその人物は隣にどかっと座った。 「誰も座っていーなんて言ってないでしょ。」 「あぁ?ちょうどここの席が空いてたからよ。」 別に席なんて他にもいっぱい空いてるでしょーよ。 というカカシの愚痴を少しも気にすることなくアスマは自分の分の酒を注文していた。 「で?見つかんなくてまたうじうじしてやがんのか。」 「・・・アスマにはかんけーない。」 「あるんだなァ、これが。」 ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべるアスマ。 なによ、と睨んでみても酒の席ではたいした効果はないようだ。 「そういえば俺はずいぶん長いことお前んとこのガキの面倒みてやったな。 それにお前が寝てた間のの事情も全部知ってる。」 「だから?」 「つまりお前には貸しだらけって訳だ。」 関係大ありだろ?と、アスマは取って置きのカードをきったと言わんばかりの自信顔で煙を吐く。 「・・・ないね、ヒゲクマなんかにそんな関係やらない。」 なんとなく面白くなくて、屁理屈をこねてまたしてもグイッと酒を喉の奥のほうへと押し込めるけれど。 今日の自分はいつまでたっても酔っぱらってはくれない。 チクショウ。 「でもよ、の捜索をガキどもとってのは当然だと思うぜ。」 「・・・なんでよ。これがいつものDランク任務ならいいよ。でもこの状況で正直足手まといならいらないんだよね。」 「ずいぶんと酷い言い様だなぁ?お前が面倒みてるガキだろーが。」 何も言わないカカシにアスマは酒に口をつけ、ひとつため息をつく。 「今のお前、その足手まといより冷静な判断が出来んのか?」 さっきからうるさいよ、ヒゲクマのくせに。 「ガキはいつまでもガキじゃねぇよ。それに」 「なに。」 「あの人お前のこと特別だからな。」 アスマがあの人と呼ぶのは昔からの付き合いでも1人しかいなかった。 「三代目がオレを?ジョーダンでしょ・・・ってそうか。1番使い勝手がいいもんねぇー。」 カカシがどこか自傷気味に笑うのを横目に見ながらも。 「知らねーのか、親父いっつもカカシには悪いことしたって言ってたぜ。時代が求めるままに、扱ったって。」 カカシはアスマの言葉にひどく動揺した。 だって、今まで死にそうなオレを散々生かしといて悪かったなんて言われても。 「忍相手にこんなこと言うのも可笑しい話だがな、お前にはいい加減幸せになって欲しいんだよ。親父も、・・・俺も。」 道具としてじゃなくて、人としての幸せを与えたかったなんて言われても。 困るよ。 「んで、幸せがなにかってのを教えてくれんのがなんだろ。」 「そうだけど。」 「だったらもっと違う方法があるだろ?」 いいかげんにしろよ。 を想って、ろくに食いも寝もせずにしてんのか。 んで、オメェがまたぶっ倒れりゃ世話ねーな。 んなこと繰り返してなんになる? 「が大事ならなァ、くだらねー見得もプライドも捨てちまえ。」 カカシのほうを見ずに、アスマはグラスに口をつけながらそう言った。 そんな言葉を受けたカカシも、前を向いたまま答える。 「でも、アスマ。プライドは捨てられてもオレにはもう意地くらいしか残ってないんだよね、これが。」 これだからエリートはイヤなんだよ、ったく。 「まぁ、でもガキどもが一緒ならちったぁ冷静にもなるだろーよ。カカシ先生。」 わざとらしく先生づけで呼ばれたことが気持ち悪かったが、かえって頭が冷静になっていく。 「努力はしてみるよ。でもさ、・・・あの辺の調査にはナルトたちにははやいんじゃないの?」 すでにカカシ班として動くことで決着がついたものの、大人の事情が山ほどつまったあの街に 忍とはいえ、まだ幼い少年少女を連れていくのはやはり気が引けた。 「まぁ、教育上よろしくねぇよーな気もするがな。早めに知っといて損はないんじゃねーの。」 「そうかなぁー。」 渋るカカシにアスマは、オメェはいちいち甘いんだよ。と言ってタバコをふかす。 「それに教育上よろしくねェのはにとってもだろ。」 お前らの気持ちに今の今まで欠片も気づかなかったあのお子ちゃまな女にはよ。 「くくくっ、それもそーかも。」 今回は見つけられなかったが、きっとはあの界隈のどこかにいる。 なんとなくだが確信のようなものがカカシにはあった。 「なんにせよ、無理矢理にでも引っ張ってくりゃいーじゃねぇか。」 「アスマってば野蛮じーん。」 「あいつもなにグチグチ悩んでっか知らねェけどよ。 カカシの女癖の悪さは収まりついたし、明日が見えねぇのはお互い様だっつーの。」 「・・・ヒドイ言い様。ま、いいんだーがどこでなにしようと笑っててくれれば。」 「本気でいってんのか。」 穏やかな声色に、お互い前を向いたままの状態からアスマがすばやくカカシの方を向く。 その本心を、表情からさぐるように。 「マジだよーもしかしたらすでにキラワレちゃってるかもしんないしねぇ。」 そりゃねぇだろ、というつっこみはほんのり頬が赤くなり、 うにゃうにゃとカウンターに突っ伏して訳のわからない事を言っているカカシには聞こえてはいないようだった。 「っんとに、に会ってからのコイツはおもしれぇな。」 どんどん人間くさくなっていくカカシは見ていて飽きない。 三代目火影である父親が昔からなにかと特別視する存在。 四代目を師と仰ぎ、片方の瞳にはうちはの血が流れている確かな血統の忍。 似たような世代のいつも遠くから見るその姿は、まるで氷のようだと思っていた。 整った容姿にデタラメな強さ。 なによりも誰もが凍りつきそうな鋭い殺気と、その心。 季節や周囲の温度に関係なく 永遠に、溶けることはないのだと。 しかし、そんなカカシも暗部から上忍になるにつれて少しは丸くなったようだが と暮らし始めるようになってからは人が変わったようにガラリと、その雰囲気が柔らかくなった。 その瞳には、確かにあたたかさが宿っていた。 触ったらつめてぇんじゃねーかって思ったこともあったっけな。 アスマは酔いつぶれたカカシを抱えて、くつくつと笑いながらムサシが待つ家へと向かった。 カカシはつかぬ間の休息をとり、次の日には今度は第七班として捜索の任務にあたった。 「じゃあ行きますかね。」 珍しく遅刻もせずに、翌朝カカシは子どもたちの前に姿を現した。 ここでからかいの言葉が次々と飛び交うのがいつもの第七班、 しかし今日はそんな状況ではないことは皆が十分に理解していた。 「「「はい!」」」 新しい任務に3人が3人とも、いつものややお気軽なムードを奥に隠し少し緊張した面持ちをしている。 ま、が関わることだしさすがにいつもの草むしりとは違うか。 「オマエらいつもそーならオレも助かるんだけどねぇ。」 単独任務の時に比べて驚くほどの落ち着きと、 あくまでも普段通りののんきさを装ってカカシは目線の下の方にいる3人の教え子たちを見る。 「カカシ先生!!のんびりしてる場合じゃないってばよ。」 「そうですよ、それにいつもみたいにナルトもサスケくんもケンカしてるひまないんだからね。」 「わかってる・・・カカシさっさと出発するぞ。」 いつにないチームワークに思わずカカシは、足元にいるムサシを見た。 「・・・に見せてやりたいな。」 ムサシはフッ、とその場の緊張感や焦燥感をほぐすように柔らかく笑う。 「それもそーね。じゃ、ナルト・サクラ・サスケこれから向かう先は火の国でも外れにある歓楽街だ。 何があるかわからん、気を引き締めていけよ。」 「「「はい。」」」 カカシの合図で、まずは以前も拠点にしていた唯一の情報をつかんだ街へと移動した。 場所が場所であるため、夜から朝にかけての捜索を3人にさせるわけにはいかないと判断したカカシは 朝は3人一緒に修行、昼からは2人は捜索1人は食事の確保をローテーションでおこなった。 もちろんカカシは、夜から朝にかけての捜索を行う。 しかし以前と大きく違うのが、朝の3人の修行に同行していること。 その後昼から夕方にかけて、眠い眠くないに関わらずきっちりと睡眠をとっているということ。 随分と落ち着いたじゃないか、というムサシの問いかけに ま、ガキどもの手前おいそれと無茶は出来ないからねぇ。と先生らしく答えていた。 そんな第七班でのの捜索が始まってから、はやくも1週間が過ぎようとしていた。 「オマエたちは大人しく寝てなさいね。パックン置いてくから、なんかあったら必ず連絡よこすよーに。」 「はーいってばよ。」 「じゃ、いってきます。」 「カカシ先生いってらっしゃい。」 3人が連れて行けと言わないのは、やはりの安否を最優先に考えた結果なのだろう。 この街がその活動を始めるのが夜だということくらい、3人にも分かっていた。 しかし、まだまだ子どもである自分たちに出来ることは少ないどころかかえって邪魔になる。 作業効率が落ちればそれだけが見つかる可能性が落ちることくらい、ナルトにだって理解が出来た。 「ねーちゃん・・・今頃どこでなにしてんのかなぁ。」 「だーいじょぶよ、ナルト!きっとすぐに見つかるわ。」 今夜はめずらしく弱気なナルトに、サクラが元気付ける。 なにしろこの街には忍の世界とはまた別の裏の社会が存在する。 ・・・それこそカカシでもてこずるような、複雑に絡み合った。 そのことが捜索の成果を遅らせ、己の無力さをナルトが感じる原因となった。 それでも下を向いていると、急に視界に影が出来たため視線をあげるとそこには仁王立ちしたサスケが。 「ウジウジしてる暇があったら修行しろ、このウスラトンカチ。」 「サ、サスケくん。」 今までのパターンからケンカに発展することを予想し、 カカシがいない今は自分がなんとしてでも止めなければならない。そう、覚悟したサクラだったが 「そーだな!明日は必ず俺たちでねーちゃんを見つけてやるってばよ!!」 胸の前で握りこぶしをつくり気合を入れるナルトに、 サスケはフッっと笑い再び部屋のすみで己のトレーニングに励み始めた。 「・・・・男の子ってこれだから。」 カカシ班が捜索活動を続けるうちに、いくつかのことが判明した。 「たしかに、はそこにいるんだな?」 「間違いないってばよ!な、サスケ。」 「あぁ、オレたちの聞き込み情報では確かにその店に出入りしている女の中に に似た奴がいるそうだ。」 ナルトとサスケの得た情報から、さらにカカシが詳しく調べ上げたところによると は現在、ユヅキの名を使い店に来た客の酒の相手をしているという。 ユヅキねぇ。 ・・・にしても、こーんなに大胆に店かまえてるトコ見落としてたなんてもしかしてオレって忍者失格? そこは以前ムサシがのニオイを嗅ぎ取った場所からさほど離れていない、わずかに入り組んだ所に位置していた。 灯台下暗しってやつー? ま、なんにせよ後は直接店に潜入してたしかめてみるしかないよねぇ。 でもったらまぁ随分と手の込んだトコにいるじゃないの。 「「「忍者出入り禁止?!!」」」 「オマエら声でかーいよ。」 作戦会議と称してカカシがこれまでに得た情報を伝え、いよいよこれからの段取りを3人に話そうとしていた所 いよいよに会える、とやや浮き足立った子どもたちの期待をカカシの一言が見事に打ち砕いた。 「そ、困ったコトにがいるかもしれないお店は忍は入れてくれないんだってよ。」 「でも忍服着替えりゃなんとかなるんじゃねーの?」 「アホ、そこには入り口にセンサーがついてた。多分俺たちのチャクラに反応する。」 「うん、それ私も見たけど結構高性能のタイプね。チャクラを練らなくても潜在的なものに反応するんだわ。」 「せーかい。サスケもサクラもよくそこまでわかったな、よくやった。」 これまでの教え子たちの成果に嬉しそうに目を細めているだけで、カカシはちっとも困った様子を見せていない。 「じゃあ・・・カカシ先生、どうするの?」 「その段取りを今から説明する。もしそこにがいるならば任務は大詰めだ、1度しか言わないからよーく聞け。」 カカシの説明によると、一時的にチャクラを封印する術があるという。 そしてそれは自分自身でかけることは出来ず、他者でありしかも最低でも3人の忍を必要とする。 「ホーント、オマエら連れてきてせーかいだったよ。」 「俺たちどーすんの?」 「そこでここに来てからの修行の成果が役にたつってワケ。」 「・・・チャクラコントロールか?」 「ご名答、ムサシ。」 「あぁ。」 そばに控えていたムサシがすばやく印をきると、あっという間にカカシの周りに術式が現れる。 準備が整うと、中心にカカシが立ちそれぞれにスタンバイに入りそれぞれ同時に印をきり両手でカカシに触れた。 シュウウウ、という音と銀色のチャクラが具象化したものがカカシを覆い、徐々にその範囲が狭まっていく。 物の数秒で落ち着つくと目に見えて違うのはその髪の色と特徴的な瞳。 「せんせー!髪!!」 「・・・真っ黒になってる・・・」 「写輪眼も・・・ないぞ。」 「ん?あぁ、コレね。」 指をさされたカカシは己の髪の毛先を持っていじりながら確認していると、かわりにムサシが説明をした。 「この術はもともとコピーしたものに加えて、カカシがオリジナルで容姿が変わるようにしたんだ。」 「すげーなんか別人みたいだってばよ。」 「一番特徴があるのが髪の色とこの目だからね、これで着替えればどこからどー見ても一般人でしょ。」 念のためサスケに写輪眼で確認させると、その身体からは見事にチャクラが消えていた。 「でも、いざという時にどうするんだ?」 「自分でチャクラを練ろうとすれば術はとける。」 「チャクラがねーのに??」 「バカねぇナルト、一時的に封印してるだけで根本的にカカシ先生のチャクラはあるのよ。 だからこの封印術だって、センサーを欺くためその場しのぎなの!」 それでもまだ頭の上にハテナを浮かべているナルトに、サクラはため息をついて説明を諦めた。 相変わらずの頭脳っぷりに、カカシもやや苦笑しながらも。 「ま、写輪眼や日向の白眼にかかればあっという間にバレちゃうからね。」 「でもあの店には忍の気配はなかった。」 「そ、だからこの程度でいーってワケ。なんでもコピーしとくもんだねぇ。」 その後どこから手に入れてきたのか、着替えを済まし誰がどう見ても一般人なカカシに 普段あまりリアクションをしないサスケまでもが、驚いた。 「さーてと、準備は整ったし。に会いにいってきますか。」 「慎重にな、カカシ。」 「ん、わーかってるって。」 今まで常にカカシと行動をともにしていたムサシも、今夜はここで3人と留守番だ。 今回の任務で一番重要な部分に差し掛かっているだけに、ムサシも気が気ではない。 それにカカシが相手に冷静に対応できるか、といえばこれまでの様子から必ずしもそうだとは言えない。 「じゃ、うまくいけばここに連れてくるから。一応いつでも里に帰れるようにしといて。」 「先生!もし、・・・もしねーちゃんが里に帰らないって言ったら・・・どーすんの?」 ナルトの問いかけにその場でくるり、と振り返ったカカシは、 なにも隠すものがない顔にやや苦しげな表情を浮かべただけで、何も言わずに出て行った。 もちろん怪しまれることもなく、すんなりとその店に潜入できた。 少々問題はあったが、それを押し通してユヅキの名前を指名し案内された場所へと座る。 これまでに人違いで肩透かしをくらったことは何度もある。 ユヅキがであることを願いながら、わずかに緊張の面持ちでカカシはその場で本人がくるのを待った。 「ねぇ、ユヅキちゃん。」 その客は、前にも絡んできたあの親父。 今夜もまたしつこくに迫る。 しかも男も学習したのか、ママやムツキの目が届かないように言い寄ってきた。 「あの、お客様?もうお席に戻りましょう?」 「ちょっと待ってよ、いいじゃない。1回くらい。」 しつこいな、1回くらいってその1回がアタシにしたら大切なんだから。 「もー冗談がすぎますよ。行きましょう?ムツキさんたち待ってますよ。」 強引に廊下を突っ切ろうと歩き出すと、後ろから腕をとられ壁に押さえつけられてしまった。 「ちょ、ちょっと。困ります。あの、・・・」 弱々しくなったの態度に、男はつけあがって耳元に口を近づけてその酒で臭う息を無遠慮に吹きかける。 「かわいいね、ちょっと大人しくしてれば済む事だから。」 鼻息荒くの身体中をまさぐる様子に、の頭はもはや軽くパニックだ。 抵抗を試みるが、所詮女の力では男には敵わない。 やめて 気持ち悪い・・・誰か助けて。 いつまでもムツキさんに守ってもらう訳にはいかないことは分かっていた。 いくらお客との性交渉が禁止されていても、それは表向きのこと。 そのうち誰かから誘われて、断れないことになるのではないかとは確かに思っていたけれど。 だからって、こんなところで・・・。 イヤだ。 違う 触れられたいのはこんな男なんかじゃない。 1人の男の顔がの脳裏に浮かんだ。 ・・・カカシさん・・・ しかし自分にはそんな権利はないとすぐに思い直し、はとうとうほんの少しの抵抗すら、諦めた。 その間にも男の手が、の下半身へと伸びていく。 もう、どうにでもなればいい。 「なーにやってんのかな?」 男が慌てて手を止め、声のほうを振り返るとそこにはスラリとした細身の比較的年齢の若い男が1人立っていた。 「邪魔をするな、さっさとあっちへいけ。」 舌打ちをし、男は再び行為に没頭しようとしたがそれは突然現れた男の所為で叶わなかった。 すばやくその背後に回り、から僅かに離れたところでその腕をねじり上げる。 「っ痛!!・・・お前、なにをしているのかわかってるのか?!」 「アンタこそ自分がしてるコトの意味わかってんの?」 腕を締め上げ、その耳元で冷たく囁く。 「ユッ、ユヅキは俺が指名したんだ。どうしようと勝手だろう!」 「ふーん。残念、それなら今夜はオレもユヅキさんを指名しちゃったからね早いトコ諦めたら?」 この言葉は男を戸惑わせるのに十分だった。 なにせ、今日はあのムツキもとやかく言えないほどの金を払ってユヅキに他の客をつけないようにしてあったはずだ。 「そ、んなバカな。ユヅキは今夜中・・・俺の」 そこまで言った所で、急に腕が緩み今度は気づけば自分は床に転がっていた。 「こーんなはした金でこの人の価値がはかれるとは思わないけどさ、穏便に済ませたいから今日はこれで引いてよ。」 バサバサと、降ってくるのは自分めがけて投げつけられた大量の札束。 「ヒッ、」 小さく悲鳴をあげて、その客は去っていった。 「ぁ、」 そこでようやくはまともに、突然現れた自分の身を助けてくれた男の顔を見た。 いくらしばらく逢わなかったからといって、 髪の毛やその瞳の色が変わっていても 間違うはずがない。 突然目の前に現れた、その人は。 ずっとずっと、私の心の中心にいる人。 「カ、・・・カシ・・さ」 名前を呼んでハッとしたは、すぐさま身を翻し奥にある店の女の子たちの更衣室に向かおうと脚を踏み出すも やはりそこはいくらチャクラを封印しているとはいえ、忍のカカシには敵わない。 「待って。」 先ほどの男とは比べ物にならないほど緩やかな力での拘束だった。 「・・・放してください。」 「頼む、少しだけでいいんだ。話を聞いて欲しい。」 その時、ユヅキがついていたはずの男が逃げるようにして去っていったのを知ったムツキがを探しにきた。 「ユヅキ!!アンタ・・・・っ?!」 ムツキが見たのは、高額の紙幣を払ってユヅキをどうしてもと指名した顔が随分と整った長身の男と その男に腕をつかまれ今にも泣きそうな顔をしているユヅキの姿。 「ちょっと、どういうことだい・・・?」 とまどうムツキにカカシはの腕を放して、ムツキのほうを向く。 「ユヅキさんのお客とみられる男が少々強引な行動をとったようでしたので、間に入らせてもらいました。」 「そうかい・・・ならよかった。ユヅキ、アンタなんともないのかい?」 「はい、・・・この方に助けていただきましたから。」 間一髪のところだったようで、ムツキはホッと胸をなでおろす。 自分が他の客についているうちに男が現れ、金を積んでユヅキを指名してきたらしいと聞いた時は 自分でも血の気が引くのがわかった。 しかし、客にあからさまな態度はとれない。 ママと2人、様子を見ながら困っていた隙を突かれた行動だった。 なにもなかったなら、よかった。 「ありがとうございました。たまにああいう手合いがいて困っていたところだったんです。」 「いえ、こちらとしてもユヅキさんがそのような目にあうのは望んでいませんからね。」 落ち着いた大人の雰囲気を出す男に、ムツキは警戒を解こうとしたが先ほどの情景が浮かぶ。 「で?お客さんはお客さんでユヅキになんの用でしょう?見慣れない所からしてここは初めてのご利用でいらっしゃいますね。」 「少しだけ・・・ユヅキさんと話をさせてもらえませんか?決して貴女が心配するようなコトにはなりません。」 ムツキは男の隣にいる、下を向いたままのユヅキを見るとその身体は震えていた。 このまま強引に家へと戻すことは出来た。 しかし、ユヅキを見つけた時の状態や目の前の男の雰囲気からいってどう考えても他人ではないのだろう。 まさか、・・・この人例の・・・?? にしたって、どうして忍がこの店にいるんだい。 「アンタみたいなもんがどうしてこの店にいるんだい。表の看板は忍者様には読めなかったかね。」 「すみません、どうしてもと話がしたいんです。」 真剣なその瞳 なによりも、この娘の本当の名前を知っている。 ムツキは保ち続けていた警戒をとき、に近寄った。 「少しだけこの人と、裏で話しといで。」 「でも!」 「いいから。じゃなきゃアンタ一生後悔するよ。」 にっこりと笑って言うムツキに、は素直に首を縦に振った。 「20分だ。それ以上のユヅキの時間はやれないね。」 こちらを見てニヤリ、と口の端をあげて言い置くと、綺麗な脚にヒールを響かせ客たちがいるフロアへと戻っていった。 「まずは謝らせてくれないか。」 2人きりになった途端にそう告げたカカシに、は思わず顔をあげて驚いた。 「どうしてッ・・・」 「どうしてって・・・オレの所為で里から出て行ったんでしょ?」 「違います、そんな・・・・なんで、なんで探しにきたりしたんですか。」 カカシさんが悪いんじゃない。 私が勝手に、里を出て行っただけ 嫌いになって忘れて欲しいって、だからそんな苦しそうに笑う必要なんてないんです。 「・・・ずいぶんと探したよ、元気だった?」 「はい、・・・ママやムツキさんにはよくしていただいでます。」 「そっか。」 「里に・・・帰っておいでよ。」 まさか探しにきて、戻ってこいなどと言われるとは思ってもみなかった。 嬉しくて、 だけど同じくらい苦しくて。 「皆が心配してるよ?それに・・・がこんなとこで働く必要ないでしょーよ。」 「働かなければ生きていけません、から。」 のその言葉に、カカシは僅かにあいていた距離をつめて そっと男に強くつかまれて赤くなった手首に触れた。 「正直ね、が笑って暮らしてるんなら無理に連れて帰ることもないかなって思ってた。」 触れる手首から、カカシさんが震えているのが伝わる。 「けど、・・・なに?知らないおっさんにへらへら愛想ふりまいて、毎日幸せ?そうじゃないでしょ、言ってたじゃない。 来た理由がなんであれ、来てよかったって思って帰りたいって。 ・・・オレのことキライでもいい。もう一緒に暮らそうなんて言わないし、が願うなら顔もあわさないようにするから。」 「だから木の葉に帰ってきてちょーだいよ。」 搾り出すようなその声に、の心は大きく揺れた。 カカシさん、でも私の帰る場所はここでも木の葉でもない。 ・・・・こことは違う別の世界なんですよ? 腕を無理矢理に振りほどこうと、が力を込めた時にムツキが再び現れた。 「タイムアップだ。行きな、。ここにアンタの居場所はないよ。」 「ムツキさ、・・・・」 「アンタはもうユヅキじゃない。今日限りでクビだよ、さっさとその忍と一緒に里に帰んな。」 「でも、」 の言葉はムツキに抱きしめられた所為で、喉の奥へとしまわれたままとなった。 「、生きてるうちはなんだって諦めちゃいけないよ。ここは忍者嫌いが集まるところだ、未練がある人間にいてもらっちゃ困るんだよ。」 厳しいけれど、出逢ったときからそのサバサバした性格は 本当にのことを思ってくれているのがわかる。 「・・・はい!」 しばし逡巡したであったが、ようやく里に戻る決意を固めたようである。 「それにこーんなにイイ男、逃したらそれこそバチが当たるってもんだよ。」 「え?あの、ムツキさん・・・カカシさんのことご存知なんですか?」 「あぁ、アタシも昔里にいたからね。写輪眼のカカシだろ、一般人の子どもだって知ってるさ。」 抱きしめていた腕を放し、と距離をとって改めてカカシの方を向くとムツキはジッとその瞳を見つめた。 あれからずいぶん年くっちまったからね。 気づかないのも無理はないか。 その行動をカカシは不思議に思ったが、すぐにムツキはの決心が変わらないうちに と追い出すように背中をカカシの方に押し付ける。 「さあさ、そうと決まったらさっさといきな。」 「ムツキさん、あの。」 「なんだい?」 「最後にムツキさんの本当の名前を教えてもらえませんか?」 今じゃもうほとんど呼ばれることがなくなった本当の自分の名。 知ってるのはママと息子くらいかねぇ。 あぁ、アンタら見てると久々にあの子に会いたくなるね。 「いいよ。」 告げられた名に今度は、隣にいたカカシが反応した。 そういえばどこか見覚えのある容姿 この女性は昔木の葉にいたと言わなかっただろうか。 「いいんだよ、あんときは別にアンタは悪くない。」 「やっぱりアナタは・・・・」 カカシがまだうんと若く、それこそ暗部でバリバリに任務をこなしていた頃。 殉職した男がおり、隊長であった自分の責任だと満身創痍の状態で家族に頭を下げにいったことが1度だけある。 その時に対応した男の妻が、目の前の女性であることをカカシは思い出した。 「オレが・・・隊長のくせに未熟だったせいで、」 「アンタの所為じゃない。いいじゃないさ、あの人が死んでアンタは生きてる。 なんの因果か知らないけど、それでこの娘を幸せにしてくれればそれでいいよ。」 「っ・・・・ありがとうございます。」 「元気でね、。そのうち忍者に嫌気がさしたらまたおいで。」 ムツキの目にほんの少し涙が浮かんでいる。 束の間だったけど、それでもこんな自分にずいぶんと世話を焼いてくれた。 「短い間でしたけど、ありがとうございました。」 2人でムツキに頭をさげて、それからナルトたちが待つ場所へと移動した。 「ねーちゃん!!」 「さん!」 「!!」 おもわずその胸に飛び込んだナルトを、は両手いっぱいに抱きしめた。 「ナルトくん!それからサクラちゃんにサスケくんも!」 「俺すっげー心配したんだってばよ。」 「うん、ごめんね。」 同じくその身を案じていたサクラとサスケにもはたくさん謝った。 単純に嬉しかった。 出会って、数えるくらいにしか一緒に過ごしていないのに。 こんなにも、自分を必要としてくれる。 視界の端でムサシくんが、大きくため息をついているのが見えてそれから目が合った。 ムサシくんも、ごめんね。 「カカシせんせ!」 「ねーちゃんもおいろけの術使えたんだな!」 から離れたナルトが、カカシに向かって自慢げに言う。 「そーね。」 でもこんな毒々しい色気はには必要なーいよ。 苦笑いをしながら、出がけの指示通りにすっかり準備が整っているナルトたちに声をかけ その身を己が羽織っていた外套で包み込みしっかりと抱きかかえた。 こうしてカカシ率いる第七班は無事にその任務を終え、とともに木の葉の里へと帰還した。 再会した!やっと再会しました! お次も同じくらいうんと長いので、気合いいれてくださいねw ラストスパート!! 後半へ続く |